liite_13-37

雑な文章、メモ、記録。

 

夜中に割ってしまったマグカップが寝ている間に金継ぎしてあった。だれかの飲みかけの珈琲にはマーブル模様が浮かんで甘ったるそうに見えたので、ぼくはテーブルの上にあったゼムクリップを三つほど珈琲に入れた。スプーンでかき混ぜるとようやく均一な色になる。かちかちと音を立てながら溺れている軟い銀色が可哀想になってきて、口に入れてみたら血液に似た味がした。

 

マグカップのふちをなぞるとさざなみのようで、正しくはなかった。修繕跡だけがぼこぼこしているはずなのに、本来なめらかなふちでさえも波打っている。ぼくのマグカップはまんまるのたまごのように乳白色が柔らかく光って見える。触るとするりとしていて、ワレモノなのに完璧だ。間違いに苛立ったぼくはマグカップを床に突き落として、子どものように泣いてみせた。硝子が砕け散るのはスローモーションで、冷えた珈琲はべしゃべしゃと広がっていく。足元が汚されていくのを眺め、それからパズルのピースみたいな硝子の欠片を拾い集めた。人差し指が切れたけど、血液はゼムクリップに似た味をしているからどうだっていいんだ。過ぎ去った夜中を繰り返したら正しくなれる気がして、ぼくは二度寝した。